「雪のひとひら」(ギャリコ)

自分はなぜこの世に生を受けたのか?

「雪のひとひら」
 (ギャリコ/矢川澄子訳)新潮文庫

ある寒い日に生まれた
「雪のひとひら」。
地上に舞い降りたときから
彼女の長い旅が始まった。
伴侶となる
「雨のしずく」との出会い、
そして新たなる命の誕生。
流れていく「雪のひとひら」は、
最後の瞬間、
自らの生の意味を深く悟る…。

例年であれば当地は
まだまだ雪に覆われているのですが、
雪の少ない今年はすでに
ほとんど融けてしまいました。
雪融けのこの時期になると
読みたくなるのが本書です。
先日読み返しました。
何度目かの再読です。
上に紹介したカバー裏表紙の
粗筋からも分かるように、
童話でありながらも、
深い人生哲学の本なのです。

彼女の一生は、
波乱に富んでいました。
人間の子どもに押し固められ、
雪だるまの一部にされる。
それを打ち砕かれ、
汚される。
暗闇の中に埋もれる。
このあたりは
成人するまでの困難なのでしょう。

解けて水になり、
「雨のしずく」と出会ってからは
しばし幸せが続きます。
4人の子どもも生まれます。
人生で最も幸福な時期です。

しかし、幸せも長くは続きません。
水路に取り込まれ、
暗い管の中を異動する。
消火用水として火に注がれる。
何とか蒸発は免れたものの、
夫の雨のしずくは
火との闘いで負傷する。
それがもとで雨のしずくは
帰らぬ人(水?)となる。
やがて迎える子どもたちが
自立していく。
老いるまでの人生です。

確かに、
私たちの過ごしている日々は
あたかも流れる水のようです。
自分は止まっているつもりでも、
周囲と共に流され、
自分の意図せぬ位置に
行き着いていることに気付き、
愕然とさせられることがあります。

自分はなぜこの世に生を受けたのか?
雪のひとひらは終始、
そのことについて
「造り主」(=神)に問いかけます。
作者・ギャリコは人の一生を、
ひとひらの雪に喩えて
その意味を問うているのです。

大人の私たちが読めば、
そこにこれまでの自分の生き方を
照らし合わせてしまい、
ついついいろいろなことを
考えてしまいます。

でも、子どもたちであれば、
この筋書きをもっと自由に
読み解く力があると思うのです。
かつての勤務校で、
本書を使って自由に話し合わせた
中学校1年生たちも、
すでに成人式を過ぎました。
その子どもたちが今、
本書を再読すると
どんなことを感じるか、
興味があります。

感性の最も豊かな時期である、
中学校1年生に薦めたいと思います。

(2019.3.21)

rihaijによるPixabayからの画像

2件のコメント

  1. 前回のやはり朝井リョウさんの作品でコメントを入れてみましたが、4回やっても
    画像認証されませんでした
    どうもこの認証形式は苦手ですね

    1. おはようございます。
      申し訳ありません。
      ワードプレスというソフトはセキュリティ重視なのか
      なかなか融通が利かなくて。
      よろしくお願いいたします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA